これはとあるワンルームアパートにて繰り広げられた壮絶なる戦いについての記事である。
シャワーを浴びて浴室を出ると壁に何やら黒い物体が付いていた。
机の上の眼鏡をとって、よく見てみるとそれは他ならぬあいつであった。
ゴキブリだ。
一体どこから入ってきたのか四、五センチほどの黒い物体がエアコンのそばで不気味に光っている。
争いはなるべく避けたい私は奴がどこでもよいからもといた穴かどこかへ戻るのを待った。しかし奴は驚くべき行動にでた。
シャキッと羽を広げるなり奴は、ブーンと私に襲いかかってきたのだ。
とっさに、私は持っていたバスタオルでそいつを迎撃した。
床にひっくり返り、足をわやわやと動かすゴキブリ。
近くにあったファブリーズを手に取る私。
足をピタリと止め、微動だにしないゴキブリ。
ふと、幼い頃の記憶が甦る。
祖父母の家でゴキブリに殺虫剤を吹き付けると狂ったように暴れだし、ビビっている隙に結局逃げられてしまったあの遠い夏の日。
やはり、確実に殺すには物理的な攻撃を行うのが良いとの結論に至った私は紙一枚を掌にのせてその上にビニール袋を装着した。紙を使ったのは、握り潰す際に奴の感触が手に直接伝わらないようにする為である。
ゴキブリを見やると、今まさに起き上がろうとしているではないか。
電撃の如く私は奴を優しく包み込み、渾身の力をもって握り潰した。
かくしてこの戦いは終わりを告げた。
なぜあいつはいきなり襲ってきたのだろうか。引越のお別れ前に一騎討ちがしたかったのだろうか。
なにはともあれ今日は、風呂上がりを待ち伏せして奇襲を仕掛けてきたゴキブリを返り討ちにし、大勝利を収めた記念すべき日である。
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