夜も遅く、人気のない入国審査場。係員は隣の同僚と冗談でも言い合っているのか、にこにこしている。そんな彼に旅券を渡すと、そのままスタンプを押され返ってきた。質問も何もない。
その後荷物を受け取り、向かったのが最難関、税関である。
ドイツの税関には緑のゲートと赤いゲートがある。何も申請するべきものがない場合は緑色のゲートに進み、申告するべきものを所持しているものは赤色のゲートに進む。
今回私は日本からはるばる非常に大変な思いをしてフェンダープレシジョンベースを担いで持ってきたので「430ユーロ以上の物品の持ち込み」という条件に該当する為赤いゲートに進んだ。
曇りガラスの自動ドアを抜けると、ひょろっと背の高い係員が対応した。「私はこのエレクトリックベースを所持している。これは430ユーロ以上である」と伝えると「いくらだ」と聞かれたので「6万円だ」というと「それはドイツの通貨でいくらくらいだ」と返されたので計算を試みていると「オッケー。行ってよし」と言われた。
そしてさらに彼は「タバコか何か持ってないか」と言った。これは収賄の常套句である。勿論冗談であろうと思った私は笑いながら「持ってない」と答えると向こうも笑って「そうか。タバコは吸わないのか」と言った。
面白い冗談である。
さて、ターミナルをでると次はフランクフルト中央駅を目指さなくてはならない。出口を抜けると目の前にバスが止まっている。周りを見渡してもチケット売り場が見当たらないが、無料であるとも書いてない。運転士に切符はいるのか尋ねると首を横に振った。
そのバスに乗り、空港内の駅に着いたは良いが、どの列車が中央駅に行くのか分からなかったのでここでもまたホームの人にどの列車が中央駅に行くのか尋ねた。すると全ての列車が中央駅に行くという事であった。
列車が空港の駅に到着した。整列乗車は行われておらず、各々が順番関係なしに自由に乗り込んでいた。乗車口とホームには段差がある。バリアフリーもへったくれもない。
スーツケースとベースをなるべく人の邪魔にならないようにまとめて出発を待っていると、警察官が二人乗り込んできた。茶色いリュックを背負って談笑しているところを見るに、仕事終わりの帰宅途中なのだろうか。なにはともあれ二人とも背が高い。190センチ前後であろう。しかもひょろっとしているわけではない。全体的に骨格が大きく、がっしりとしている。頼もしい。
そろそろ発車しようかという頃、駆け込み乗車を試みる乗客が四五人いた。最後の人がドアに挟まり、ドアが再び開き、発車が遅れる。しかしドアの目の前にいる例の警察官二人組は何も注意しない。再びドアが閉まろうとするとまた一人駆け込む者がいた。案の定その者も挟まり、また再びドアが開き、発車が遅れる。警察官二人組はただただ互いに不機嫌そうな顔で何かを言い合っただけで、駆け込み乗車の犯人に対しては何も言わない。
その後無事に列車は発車し、フランクフルト中央駅に到着した。
その日の夜はそこから歩いて5分ほどのところにあるホテルに泊まった。
初めての国にたった一人で、いろいろな事がありますなぁ。また異国の話しを聞かせてくだされ。
返信削除